FDG-PET検査 - なぜ食事制限、運動制限が必要なのか - コラム2020.04.10

FDG-PET検査について

PETがん検診の中心となるFDG-PET検査では、FDGという薬剤を注射して検査を行います。FDGはブドウ糖の類似化合物(よく似た物質)であり、体の中のブドウ糖代謝(糖代謝)を見る目的で使用します。多くのがん細胞ではブドウ糖の代謝が盛んでブドウ糖を多く取り込みますが、それと同様に注射したFDGもがん細胞に多く取り込まれます。FDG-PET検査ではその様子を画像化してがんの診断を行います。
以前のFDG-PET検査のコラム(2019.10.9)でお話しましたように、FDGはがん以外の正常な臓器や部位にも集まります。それを専門用語では生理的集積といいますが、FDG-PET検査ではこの生理的集積ががんの発見や診断の妨げになる場合があります。そのため実際の検査ではこの生理的集積をできる限り少なくするために、受診者の皆様に検査前に注意していただくことがいくつかあります。今回は食事制限運動制限についてお話します。

食事制限について

先ず、食事制限についてです。当センターではPETがん検診の受診者様に対して受付4時間前から食事や糖分を摂らないようにお願いしておりますが、それには2つの理由があります。
そのひとつは、全身の筋肉や脂肪にFDGが集まってしまう点です。食事などで血糖値が上がるとインシュリンの分泌が増加しますので、結果として全身の筋肉や脂肪にFDGが取り込まれてしまいます(FDG集積といいます)。それがなぜ良くないかといいますと、特に胸部、腹部など体幹部の筋肉や脂肪のFDG集積が増えると、全身のPET画像を見たときに病巣部位のFDG集積のコントラストが下がってしまい、その結果、肺がんや大腸がんなどの異常な集積を見つけにくくなる可能性が生じるのです(図①)。
もうひとつの理由は、がん細胞へのFDGの取り込みが減る点です。食事などで血中のブドウ糖濃度が高くなると、がん細胞内にFDGが取り込まれるのとブドウ糖が取り込まれるのが競合するようになり、空腹時と比べてがん細胞へのFDGの取り込みが相対的に低下するからです(図②)。
このように血糖値が高くなると、通常の空腹時と比べてFDGの体内分布が異なってしまうため、PET画像の診断に影響を与える原因となりますので、注意してください。
食事制限による影響

運動制限について

続いて運動制限についてです。ブドウ糖は筋肉のエネルギー源として用いられますので、FDGを注射する前に筋肉の運動が生じる(=筋肉がエネルギーを欲している状態)とその筋肉にFDGが集まります。したがって、検査当日はもちろんのこと、検査前日でも水泳やテニスなど激しい運動をすると上腕や下腿などよく動かした筋肉にFDGが強く集まる場合がありますし、スポーツジムなどで全身運動を行ったために腹筋や背筋のような体幹部にFDGが集まると、胸部から腹部の広い範囲のがんの診断の妨げになる場合があります。また、検査前にシュガーレスガムを噛んだ場合も、咬筋(こうきん:咀嚼する際に使う筋肉)や舌にFDGが強く集まることがあり、特に口腔内の診断に影響するので注意が必要です。検査前日からはジョギングなどの軽い運動も避けて、なるべく安静に過ごすことをお勧めします。
今回はFDG-PET検査前の食事制限と運動制限についてお話しました。精度の高い診断を行うために大変重要なことですので、受診される皆様に必ず守っていただきたいと思います。
医師 (002)