FDG-PET検査 - FDGは何に集まるのか - コラム2019.10.09

FDG-PET検査とがん

PETがん検診の中心となるFDG-PET検査とその画像についてお話しします。
FDG(フルオロデオキシグルコース)という薬はブドウ糖に良く似た薬で、もともとは臓器の糖代謝、主には脳の糖代謝機能をみるために用いられていました。今でも脳や心臓の機能をみる目的でも用いられることはありますが、FDG-PET検査ががんの原発部位の特定や浸潤、転移、再発などの診断に非常に有効であることが分かってきてからは、FDG-PET検査のほとんどががんの診断、検診に用いられるようになりました。(余談ですが、1982年にFDGががんの検出に利用できることを世界で初めて報告したのが、当センターの名誉院長を務めている米倉義晴先生です。)
さて、FDGは全身の多種多様ながんに集まる(集積する)ことは、皆さんご存知かと思いますので、今回のコラムでは、がん以外のFDG集積についてお話ししたいと思います。

FDGはがんでなくても集まる

FDG-PET検査の全身画像
(1)脳
もともと脳の機能をみる目的で用いられているFDGですので、脳には非常にたくさんのFDGが集積します。ただし、糖尿病などで血中のブドウ糖濃度が高い場合には、ブドウ糖と競合してFDGの脳への集積は相対的に低下しますが、この場合は、脳機能が落ちているわけではありません。
(2)頭頸部
ほとんどの受診者の画像で扁桃腺、舌下腺(大唾液腺のひとつ)にはFDGが集積しますし、その他の頭頸部のリンパ組織にもFDGが集積する様子がみられることもよくあります。毎年受診されている方々の画像をみると、特に症状がなくても炎症性反応性に集積が強くなったり弱くなったり、あるいは左右差がみられたりすることもあります。う歯(虫歯)や歯肉炎などの炎症による集積もよく見られます。このような場合は、問診情報や他の画像、検査結果と総合して、腫瘍の可能性を考慮したり、除外したりします。
また、耳下腺(耳の下あたりにある大唾液腺)や甲状腺では良性の腺腫に集積することも多いですが、甲状腺の場合はその中に進行の非常に遅いがんが含まれていることがあります。慢性甲状腺炎(橋本病)は比較的発見される頻度が多く、腫大した甲状腺全体に集積がみられますので、血液による甲状腺機能検査を併用して診断します。
(3)心臓
心臓の左心室は常に拍動し血液を送り出していますので、多くのエネルギーを消費することからFDGは集積しやすいです。ただ、心臓はエネルギー源としてブドウ糖以外に脂肪酸も用いていますので、脳と同様に非常に強く集積することもあれば全く集積しない場合もあります。面談時には前回受診時の画像と比較しながら説明しておりますと、胸の中心部に前回の画像にはない黒い(あるいは赤い)塊に気付いて「何か心臓にあるのでは?」と一瞬表情が強張る方もいらっしゃいますが、心配ありません。異常ではないことを説明しています。
(4)尿路系
FDGは腎臓から尿中に排泄されるため、腎臓が機能していれば、腎盂(腎臓と尿管の接続部で腎臓からの尿が集まるところ)から尿管、膀胱などに強い集積がみられます。尿管に沿って集積がみられればCTやMRIで尿管の走行位置や尿の滞留の原因となる異常がないかを確認し、膀胱の病変に関してもMRIで確認します。
(5)消化器(大腸・小腸)
大腸や小腸は蠕動(ぜんどう)(ミミズのような動き)や収縮によって、病変がなくても強い集積像を示す場合がよくあります。限局性(一部分に集積している)でがんやポリープの可能性を否定できない場合は、遅延像といって、時間をおいて再撮影させていただくことがよくあります。蠕動や収縮に伴う生理的な集積は、時間経過で部位が移動したり消失したりするので、器質的病変(腫瘍やポリープなどの物理的な変化)を除外することができます。
(6)卵巣・子宮内膜
閉経前の女性では、月経周期のある時期に卵巣や子宮内膜に強い集積がみられることがよくあります。閉経の有無や月経周期の問診情報は、これらの部位の集積が生理的な集積で心配がないものか、あるいは病的な集積であるかを判断するためです。もちろん、閉経前でも必ずしも生理的集積ではない可能性もありますので、MRI検査との併用が有用です。卵巣や子宮内膜の生理的集積以外に、良性病変では子宮筋腫にFDG集積がみられる場合があり、この場合もMRIで確認しています。

FDG-PET検査を検診でうまく使うには?

以上のように、FDG-PET検査は、多くのがんを見つけることが可能なだけでなく、がん以外の病変の発見にも役立ちます。一方で良性病変や生理的集積など健康には心配のない所見がみられることも多く、CT検査やMRI検査、超音波検査など他の検査と組み合わせることで、偽陰性(本当は陽性であるのに陰性としてしまうこと)や偽陽性(本当は陰性であるのに陽性としてしまうこと)を減らして、検診の効果を高めることができると考えています。また、複数の検査を比較するだけでなく、過去の画像との比較による経年変化も非常に重要な情報源となりますので、継続的な受診も検診精度を上げるためには重要であると考えます。
PETがん検診で実施する検査の組み合わせ
当センターでは、PETがん検診を受診された方(PET-CTコースは除く)に検査画像が入ったCD-ROMを提供しています。FDGはがん以外にも集積するということを踏まえ、ご自身の検査画像をみていただくと、より関心が持てるのではないでしょうか。
医師 (001)