放射線と私たち コラム2020.05.11

放射線の発見

介護が必要となった主な原因の構成割合
1895年11月8日はバイエルン・ビュルツブルク大学のレントゲン博士が『X線』を発見した日です。
当時、世界では陰極(電子)線の研究が盛んに行われていました。博士もまた陰極線研究をしているなか、実験の際に黒いボール紙で覆われたクルックス管(本来、光は出てこないはず)から不思議な光のような線が出ていることを偶然発見します。博士はこの“未知の線”をX線と名付け、その透過作用、電離作用、蛍光作用、写真作用などの物理的解釈を数カ月間でまとめ発表しました。これが「放射線」の発見となり、博士は第1回ノーベル物理学賞を獲得しています。
写真は当時撮影された世界で最も有名なX線写真の一枚です。手の主は博士の妻、アンナ・ベルタ夫人の左手で薬指にある黒い塊は金の指輪です。

放射能・放射性物質の発見

レントゲン博士のX線の発見から1年後の1896年、蛍光物質の研究をしていたベクレル博士は、実験用のウラン鉱石と一緒にしまっておいた写真乾板(光に反応するガラス板)が感光していることに気づきました。博士はその出来事からウラン自体からX線に似た“未知の線”(放射線)が出ていることを発見しました(放射能の発見)。さらに1898年、キュリー夫妻らはウラン鉱石から“未知の線”(放射線)を放出する物質を取り出そうと試み、ポロニウムやラジウムの抽出に成功しました。後にキュリー夫人はこのように物質自身から放射線を発する能力を 「放射能」と名付けました。また、放射能をもつ物質を「放射性物質」と呼びます。
骨粗鬆症の治療時に推奨される食品例

現在での放射線利用

DXA装置
このように、レントゲン博士によるX線(放射線)の発見から数年の間に放射線を出す能力(放射能)を持つ物質(放射性物質)が多数発見され、研究が進み、今では様々な分野で利用されています。
X線発見の翌年1896年にはX線写真で骨折を診断したり、体内の異物を写すなど早くも医療の分野に応用されました。現代においても胸部のレントゲン撮影やCT検査ではX線を使っています。その発生原理の根幹はレントゲン博士が発見した当時と同じです。PET検査で使用しているFDGなどの検査薬は18フッ素と呼ばれる放射性物質を使用しています。このように放射線を用いた診断や治療等を行う分野を放射線医学といい、現代医療の中で欠くことのできない分野となっています。
また、医療以外でも身近なところで放射線は利用されています。農業分野では農作物の品種改良や発芽抑制、害虫の駆除などに利用されていますし、工業分野では製品の厚み測定や調べたいものを壊さずに内部構造をみる非破壊検査、ゴムやプラスチックの品質改良などに利用されています。
X線発見以降、多くの研究者や技術者の研究・技術開発によって放射線は広く有効利用されるようになり社会生活の中に取り入れられています。私たちの普段の暮らしは先人たちの努力の恩恵に預かっているといえます。目に見えないため、“こわい”と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、過度に恐れることなく正しく使うことが大切だと考えています。
診療放射線技師 (003)