耳で聞こえない音…高周波非可聴音の可能性 コラム2021.02.19

高周波非可聴音とは

音の高さと振動数
高周波非可聴音とは、人には認識できない高い音のことをいいます。
人は空気の振動を音として感じることができ、振動の数が少ないと低い音、多いと高い音として感じます。振動の数のことを「周波数」といい、Hz(ヘルツ=1秒間に振動する回数)という単位で表されます。一般的に20Hzから20000Hzまでの振動を音として聞き取ることができると考えられています。反対に、20000Hz以上で振動する音は聞こえないとされているため、この20000Hz以上の空気の振動を高周波非可聴音と呼んでいます。

高周波非可聴音は聞こえないので “あっても、なくても良い”と考えられており、音楽CDでは、およそ22000Hz以上の音については再生ができない仕様となっています。一方で自然界、例えば熱帯のジャングルの環境音には高周波非可聴音が多く含まれることが報告されています1。またインドネシアの民族楽器ガムランを使用した音楽にも高周波非可聴音が多く含まれることが確認されています2

高周波非可聴音はなくても良いのか?

高周波非可聴音は聞こえませんが、本当に体への影響がないか?ということを調べた研究結果が報告されています1。この研究では、非可聴音を含んだ音楽と含まない音楽を聞いたときの脳波を比較し、非可聴音を含んだ音楽を聴いた時の方がα波と呼ばれる成分が増大していることが明らかになりました。また、同様に脳内の血流を比較すると、非可聴音を含んだ音楽を聞いたときの方が脳幹と呼ばれる部分の血流が上昇しているのが確認されました。
これらの結果から、非可聴音は音として聞き取ることはできないものの、何らかの形で身体に影響している可能性が考えられています。

高周波非可聴音の可能性

このような高周波非可聴音が身体にもたらす影響の可能性について、わたしたちも着目し検証を行っており、有料老人ホーム入居者の方のご協力のもと、認知機能や気分・行動の変化について評価しました3。検証では、参加者をランダムに2群に分け、一方には非可聴音を含んだ音楽、もう一方には含まない音楽を毎日聴いていただきました。その結果、高周波非可聴音を含む音楽を聴いたグループでは、そうでないグループと比較して気分が維持され、怒りを抑えられる傾向がみられました(図1)。またアンケート結果では日常の行動量が増加する傾向も見られました(図2)。
音楽を聞いてからの気分の変化
音楽を聞いてからの外出回数のアンケート結果
今回の結果では直接的に認知機能の変化は見られなかったものの、脳への刺激による気分や行動の変化から、認知症対策の1つとしての可能性を考えています。引き続き、高周波非可聴音の医療分野への応用に期待し、さらなる検証を進めています。

また、非可聴音を再生可能なスピーカーを当センター内のロビーおよび3階に設置しております。検診をご受診の際にご覧ください。
 
  1. Oohashi T et al. Inaudible high-frequency sounds affect brain activity: hypersonic effect. J Neurophysiol. 2000;83(6):3548-3558.
  2. 大橋力. インドネシアの打楽器オーケストラ”ガムラン”. 日本音響学会誌. 1998;54(9):664-670
  3. 岡田裕之 他. 高齢者に対する高周波非可聴音の認知行動への効果【長期的な高周波非可聴音を含む音楽聴取による健常高齢者の心理行動の変化】. 一般社団法人 日本認知症予防学会誌. 2020;10(1):3-9
研究開発・合成 (004)